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誇ろう・つなごう・札幌の自然 札幌市政研究所 2012年夏 Booklet No.11
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29.市鳥・カッコウが鳴かなくなった札幌の中心部

 
 ▲2012春、ヒナをかえしたオジロワシのペア(石狩)
 
 ▲札幌の市の鳥、カッコウ
 
 ▲求愛で雌にエサを渡す雄のカワセミ
  今年の春、バードウォッチャーらを驚かせる出来事がありました。札幌市の都心部から車でわずか40~50分の所にある林の上で、環境省レッドリストで絶滅危惧1B類に指定され天然記念物のオジロワシが営巣し、しかもヒナをかえしたのです。カラスの度重なる襲撃に耐えながら親は必死にヒナを育て、その後無事幼鳥は空を舞いました。道東地方などで多く見られるオジロワシは本来、サハリン(樺太)などが故郷で、時期になるとそこに帰ります。それでも環境省によると約1700羽が北海道で越冬しますが、つがいで越冬となるとわずか140組程度といいます。広大な北海道でたったの140組、そのうち1組が大都会・札幌からほど近い林で過ごし、しかもヒナをかえすという出来事は奇跡に近いといえます。
  オジロワシの営巣、二世誕生は札幌および周辺地域の自然の豊かさを物語っています。しかし本当にそうなのか、と言えば疑問符を付けざるを得ません。札幌市は1960(S35)年11月、市の花・木・鳥を制定しました。そのうち鳥は「カッコウ」であることは知られています。
  北国に初夏の訪れを告げるカッコウ。少し前であれば都心部にほど近い所でもその爽やかな鳴き声を誰でもが聞くことができました。しかし今ではほとんど聞くことができません。日本野鳥の会札幌支部はいま、札幌市の鳥・カッコウについて市内にどのぐらいいるかを調べています。まだ最終結論というわけではありませんが、「市内のカッコウは間違いなく激減しています。いわゆるドーナツ化現象が起きており、中心部からはいなくなっています」(同支部)と話しています。
  相当昔の話にはなるものの、かつて円山や藻岩山では住宅地からほど近い所でもカワセミ、アカショウビンといったバードウォッチャー憧れの鳥が見られました。しかし今は、余程のことがなければあり得ません。
  かつて見られたのに今は見られないというのは、何も野鳥に限りません。チョウなどの中にも今では絶滅したのではないか、と思われているものも多くいます。
  北海道では最初に札幌市の発寒と石山で発見されたアサマシジミ(イシダシジミ)や円山などごく限られた所に生息していたゴマダラチョウは市内からほぼ姿を消しました。草原性のチョウで豊平区に多かったゴマシジミやカバイロシジミなども極めて数を減らしており、いずれ“風前の灯”になる恐れもあります。


30.減少する札幌の緑。北、東、白石、厚別区は悲惨

  市域の60%以上を森林が占める札幌市は一見、野鳥や昆虫などの生き物にとってパラダイスのように思えますが、必ずしもそうとはいえません。
  たとえば自然植生。札幌市の自然植生は約50%と全国水準と比べて高く、北海道全体と比べても高くなっていますが、区ごとで見れば極端に差があります。平地部に位置する北区や東区、白石区、厚別区にはほとんど自然の植生が残っておらず(グラフ➀)、これに対し南区と西区では高い割合で残っています。つまり自然性の高い地域は南西部の山地に偏っているのです。
 ※グラフ1
  一方、緑の量を計る言葉として「緑被率」というものがあります。緑被とは樹林地、草地、農地、水面および公園緑地など植物の緑で覆われた範囲のことで、その割合が緑被率です。
 札幌市の調査によると市の都市計画区域全体の緑被率は2007(H19)年度、54.3%。10年前の1996年と比べると500ha以上の緑が減少している計算です(グラフ➁)。緑被率をさらに細かく見ると、市街地(市街化区域)では18.9%、都心部に限定すればさらに下がって12.0%です(グラフ➂➃)。「札幌は緑が多い」というのが市民の一般常識ですが、たとえば市街化区域の緑被率で比較した場合、札幌市のそれは全国の主な都市の中で、一位の神戸市(32.9%)には遠く及ばず、仙台市(28.4%)、京都市(25.8%)、広島市(22.9%)、新潟市(21.8%)、福岡市(20.7%)、横浜市(19.9%)の後塵を拝しています(グラフ➄)。
  緑というと、どうしても藻岩山や円山、手稲山、定山渓、白旗山などの緑に目が向き、“緑がいっぱい”ということになりますが、厳然とした数字を見ると、札幌の緑は昔と比べると、必ずしも誉められた状態ではないことが分かります。

 ※グラフ2
※グラフ3
 ※グラフ4
 ※グラフ5


31.野生生物の生息・生育環境を妨げる緑の減少

  札幌市の都市計画区域全体の緑は、このまま何もしないでいると今後10年間でさらに100ha以上(札幌ドームグラウンド約70面分)が失われるとされます。つまり植物の緑で覆われた範囲が少なくなります。
  緑被率の低下は農地の減少による所が大きいといえますが、都市化に伴い市街地に接する山麓、台地、丘陵地の森林も減ってきています。また新たな道路の建設や拡幅などによって草地も危機にさらされています。その結果生まれる多様な自然環境の減少は、野鳥や昆虫、植物を含む野生生物の生息・生育環境の減少をもたらし、地域の生物の多様性が損なわれる恐れがあります。
  野性の生き物はデリケートなもの。たとえば世界でも札幌だけにすむ亜種で小型のジャノメチョウ科のシロオビヒメヒカゲというチョウは、いま“純血”が危ぶまれていますが、その大きな原因は開発です。北海道にはこの札幌産のシロオビヒメヒカゲのほかにもう一つの亜種がいて、主に道東に生息しますが、近年、開発に伴ってできた道路の法面づたいに西進。札幌のみに棲むシロオビヒメヒカゲとの“混血”が危ぶまれているのです。法面にはしばしばケンタッキーブルーグラスという外来の芝生が緑化用に植えられますが、シロオビヒメヒカゲの幼虫はこれを大変好むといいます。
  開発によって真っ先に影響を受けるのは野生生物である一つの証拠であり、こうした例は枚挙にいとまがありません。


32.「つなぐ」をキーワードにした改定「みどりの基本計画」

  札幌市は2011(H23)年3月、14年ぶりにそれまでの「札幌市緑の基本計画」を改定し、新たに「札幌市みどりの基本計画」を策定しました。ここでいう「みどり」は、札幌における公園、森林、草地、河川や湖沼池のほか、民有地を含めたすべての緑化されているスペース、さらには家庭などの樹木や草花を包括しています。
  札幌市では1982(S57)年、札幌市都市緑化推進条例に基づき、最初の「札幌市緑の基本計画」が策定され、その後1994(H6)年に都市緑地保全法が改正され、「緑の基本計画」が法的に位置づけられたことを受け、99年6月に17年ぶりに「札幌市緑の基本計画」が改定されました。今回の改定はその後一段と地球環境保全の取り組みの重要性が増し、緑を取り巻く社会的状況が大きく変化しているのを受けてのものです。計画の期間は第4次札幌市長期総合計画の目標年次に合わせ2020(H32)年とし、その時点で計画を見直すことにしています。
  改定された「札幌市みどりの基本計画」の基本理念は「実現しようみんなの手で 人とみどりが輝くさっぽろ」。財政的な制約が厳しい中で、これまで作り上げてきた緑を効果的に守り次代に引き継ぐことを主眼に、新たに「つなぐ」をキーワードとして市民の協働による緑豊かな街づくりを目指すとしています。この際の協働の担い手は、「市民」、町内会やNPOなどの「活動団体」、「企業」、「大学などの専門機関」、「行政」の5つ。これらの担い手が「個々の取り組み」「参加・協力の取り組み」「連携の取り組み」を通して緑をつくる人の環(わ)を広げるとの考えです。


33.緑や水環境の連続性の創出が生物の多様性の保全の鍵に

 
 ▲環状グリーンベルトの拠点の一つ茨城川緑地
  札幌市の森林面積の割合は60%以上と市域の大きな部分を占めていますが、その大部分が山地部に集中しています。札幌市とその周辺地域の平野部では石狩湾に沿った防風林や北海道大学のキャンパス、野幌森林公園などいくつかの拠点的な緑地があるものの連続性やまとまりに欠け、山地部に偏在しています。札幌市が今後、これら森林や緑地などに生息・成育する生物の多様性を確保して行くには、自然性の高い森林などを大切に保存する一方で、市街地と近郊の自然の連続性をつくり上げることが極めて重要になります。
  改定された「札幌市みどりの基本計画」では、「緑の将来像」を示していますが、そこには“緑の連続性”が強く打ち出されています。
  最も骨格となるのは1982年に策定された旧札幌市緑の基本計画において提起され、現在も進行中の環状グリーンベルト。現在、すでに完成しているモエレ沼公園などのほか造成中の山口緑地を含め21の公園・緑地などが緑の拠点として設定されており、計画中の厚別山本公園、構想のある東米里公園を含め近い将来、拠点は23カ所となります。「みどりの基本計画」ではこの環状グリーンベルトに多様な生物の生息空間としての役割を持たせます。
  「緑の基本計画」としては初めて盛られたのがコリドーです。コリドーとは「廊下」「回廊」などを指す言葉。2000年から始まった第4次札幌市長期総合計画ではすでに必要性に触れられていたもので、主要な道路や河川の緑が保全、創出、連続化され、特色ある緑の軸が作られるとともに、多様な生物の移動空間の確保を目指すものです。「みどりの基本計画」では豊平川コリドー、大通コリドー、新川コリドー、創成川コリドー、北東コリドー、南東コリドーを設定しています。
  「みどりの基本計画」では都心部での緑の創出を喫緊の課題として取り上げ、「都心部樹林率」に具体的目標値を設定しました。それによると計画最終年の2020年の都心部樹林率を現在の8.9%から1割増のおよそ10%とします。その一環として市では2013年度から、都心部の緑化を進めるため、民間の建物が緑化する際の助成制度を計画しています。
  つまり改定された「札幌市みどりの基本計画」では、環状グリーンベルト、コリドー、都心部の緑の増加、それに河川を中心とした水辺空間をつなげることによって、緑のネットワークを形成し、景観やレクリエーション、防災などへの効果を高めるとともに、生物の多様性を保全することを目標としているといえます。


34.「環境首都」宣言も、試される市の緑の行政

  札幌市は2008(H20)年、市民一人ひとりがこれまで以上に地球環境保全に取り組んでいく決意をし、世界に誇れる環境都市を目指すため、「環境首都・札幌」宣言を行いました。同時に「さっぽろ地球環境憲章」を制定しています。地球環境憲章ではその前章に「わたしたちは、四季折々の美しい自然と豊かな文化を次世代に伝え、地球と札幌のより良い環境を創造する札幌の市民です」と謳われ、第1章に「豊かな水やみどりを守り、育むまちをつくります」とあります。
  近年、「生物多様性」という言葉が盛んにマスコミに登場するようになりました。生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。1992(H4)年には「生物多様性条約」がつくられ、2009年12月現在、日本を含む192カ国とECがこの条約に入り、世界の生物多様性を保全するための具体的な取り組みを行っています。さらに2010年は国連が定めた「国際生物多様性年」でした。
  地球上の生きものは40億年という気の遠くなるような時間の中で、さまざまな環境に適応、進化し、3,000万種ともいわれる多様な生きものが生まれました。人間はその一つに過ぎません。これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接、間接的に支え合って生きています。
  生物の多様性の重要さも謳った「札幌市みどりの基本計画」が札幌の貴重な動植物の生命に役立つものになるのか、「環境首都・札幌」宣言と「さっぽろ地球環境憲章」で謳われた理想が実現されるのか、注意深く関心を持って見守らざるを得ません。

   
 ▲2012話題の"脱走"フラミンゴ(石狩湾新港西港)

 
〈参考資料〉順不同

・ 札幌百年の人びと(札幌市史編さん委員会・編)
・ 札幌市みどりの基本計画(札幌市)
・ 札幌市環境白書23年度版(札幌市)
・ 札幌の鳥たち(北海道大学図書刊行会)
・ 決定版 日本の探鳥地北海道編(文一総合出版)
・ 北ぐにの鳥(北海道新聞社)
・ 北海道地域別鳥類リスト(野生生物情報センター)
・ 北海道野鳥観察地ガイド(北海道新聞社)
・ 北海道野鳥図鑑(亜璃西社)
・ さっぽろ文庫67「野鳥観察」(札幌市教育委員会・編)
・ さっぽろ文庫12「藻岩・円山」(札幌市教育委員会・編)
・ さっぽろ文庫20「札幌の自然」(札幌市教育委員会・編)
・ さっぽろ文庫4「豊平川」(札幌市教育委員会・編)
・ 札幌のバードウォッチング(日本野鳥の会札幌支部編集・野生生物情報センター発行)
・ 札幌の昆虫(北海道大学出版会)
・ 北海道の蝶(北海道新聞社)
・ 北海道山の花図鑑 藻岩・円山・八剣山(北海道新聞社)
・ 北区トンボウォッチング(北海道札幌拓北高等学校)
・ さっぽろ文庫52「札幌昆虫記」(札幌市教育委員会・編)
・ 日本野鳥の会札幌支部ホームページ
・ 北海道野鳥愛護会ホームページ
・ 環境省ホームページ
・ 北海道ホームページ
・ 札幌市ホームページ
・ 北海道大学ホームページ
・ 北海道人ホームページ   その他

※記事中、野鳥に関する記事の一部は現地における実地の観察。また一部記事は聞き取りによる。 


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