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誇ろう・つなごう・札幌の自然 札幌市政研究所 2012年夏 Booklet No.11
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誇ろう・つなごう・札幌の自然


札幌とその近郊は貴重な動植物のウォッチング天国
絶滅に瀕する札幌産の昆虫、鳴かないカッコウ
都心部の緑の回復と広域的な緑の連続性が課題


  190万都市・札幌は国内屈指の大都市でありながら豊かな自然で満ちあふれています。昨今はウォッチングや写真撮影などを通して動植物に触れ合う市民も多くなりました。多様な生物が相互に依存し合って成り立っているこの地球。2010年は国連が定めた「国際生物多様性年」でした。身近な動植物の観察はこの生物の多様性を膚で感じるまたとない機会です。札幌市では昨年度から動植物の“揺りかご”である緑の将来像などを示した新たな「みどりの基本計画」を実施しています。そこで今号では市内および周辺地域における主に野鳥や昆虫を中心とした札幌の自然の実態を追いかけてみます。

.板垣市長が札幌の自然の豊かさを的確に表現

 1982年(S57)年に発行された「さっぽろ文庫」20巻目のテーマは「札幌の自然」でした。当時の板垣武四市長はその巻頭文として「自然と私~序にかえて」との一文を寄せています。内容は札幌の自然の豊かさ、貴重さを端的に、そして的確に述べたものでした。「今から30年前のことでしょう」という前に、少々長くなりますが、以下にほぼ全文を紹介しますので一瞥を。
  「私のところには、国内、国外を問わずたくさんのお客様が見えられますが、仕事の話がひと通り終わったあとは、札幌の街、とくに自然の魅力について話がはずむことがあります。
  最近とくに気づくことは、お客様の中に野の花や野の鳥について大変な興味と観察の実績を持つ方が次第に多くなっているということです。
  こういうお客様はほとんどの方が豊平川のサケの話を知っており、河川の浄化が急速に行われたこと、サケについての市民の関心が極めて高いことに驚かれるようです。
  人口140万を超す大都市にサケが帰ってきたということ、またそのことが不思議でないような大自然にとりまかれていることを、率直に羨ましく思うのでありましょう。
  〈サケが帰るくらいだから、野の花や野の鳥はさぞかし〉と目を輝かせるのも、また当然かも知れません。
  札幌の街が、公園面積や街路樹では日本の大都市でトップであるということをご存知の市民の方でも、実はそれ以上に羨望の的となるような大自然が市域周辺に広がっているということには、それほど感激なさらない。
  始めから恵まれすぎているので今さら気づかない、ということかも知れませんが、私達の次の世代には、これが大きな遺産、大きな魅力となるのは間違いありません。
  事実、自然愛好の動きは若い世代に確実に広がっているようです。私は円山公園のそばに住んでいますが、休日の朝など、双眼鏡やカメラを手にした親子連れが明らかにピクニックとは違った真剣な目つきで円山原始林に入っていく姿をよく見かけます。
  市街地にある都市公園でくつろぐ楽しさはもちろんですが、ちょっと足をのばせば、このように野の花や野鳥に接することができる大自然がある、というのはなんと恵まれたことでありましょうか。
  野幌原始林、円山、藻岩山、手稲山、札幌岳、空沼岳、滝野、茨戸・石狩方面等々、まさに大自然の中にこの街はあるのです。
  これらを守り、育てるために力をつくさねばならぬ、という気持ちが私の中で次第に大きくなっています。」
※写真/藻岩山から円山を望む


.市民の「札幌が好き」な理由の多くが「自然の豊かさ」

  札幌市が行った「郷土意識について」の平成23年度市政世論調査で「札幌の街が好きか」を市民に聞いたところ、97.3%の人が「好き」「どちらかといえば好き」と答えました。「好き」「どちらかといえば好き」を合わせると、32年連続で90%以上になっています。また「札幌が好きな理由」を聞いたところ、最も多かったのは「緑が多く自然が豊かだから」で35.8%、「四季の変化がはっきりしていて季節感があるから」が32.2%と、「地下鉄やJRなどの公共交通機関が整備されているから」(27.2%)といった生活の利便性を上回って自然の豊かさに満足している市民の姿が浮き彫りになっています。
  「札幌が好きな理由」に「緑が多く自然が豊かだから」を挙げる市民は毎年30%を上回っています。
  一方市は、2010(H22)年4月~5月の間、20歳以上の市民を対象に「みどりに関する市民アンケート」を実施しました。その中で「あなたは、住まいのまわりが、みどり豊かだと思いますか」を聞いたところ、「豊かだと思う」が27.1%、「どちらかといえば、豊かだと思う」は46.1%を占め、合わせると73.2%の市民が身近な緑について「豊か」との感覚を持っていることが示されました。
  また「あなたは、都心(大通や札幌駅周辺)が、みどり豊かだと思いますか」の質問に対しては、「豊か」(19.8%)「どちらかといえば豊か」(49.0%)を合わせ68.7%が「豊か」と答えています。さらに「あなたは、お住まいのまわりの道路が、みどり豊かだと思いますか」の問いには、「豊か」(14.9%)、「どちらかといえば豊か」(43.9%)と、合わせて58.8%が「豊か」と答えました。


.森林面積は市域の約60%、植物種も豊富な札幌


  札幌市とその周辺地域の地形は大きく山地、丘陵地、台地、低地の4つに区分されますが、地域内には大小の河川や湖沼、河川によって形成された渓谷、扇状地、低地に広がる湿原、日本海に開ける海岸が見られるなど、極めて変化に富んでいます。このうち山地は南西部に広く分布、丘陵地はこれらの山地につながって南東部に広がり、台地は南東部から東部にかけて広がっています。また低地は石狩川とその支流を中心とする地帯に広がり、札幌市の中心部が豊平川が作った低地を成す扇状地上に発展したものであることは、よく知られています。
  札幌市の山地や丘陵地の大部分は森林で覆われています。市域の森林面積は天然林、人工林などを合わせ70,591ヘクタールに達し市域面積全体の約60%を占め、全国の大都市の中では高い割合を示しています。植生は平地部はエゾイタヤやシナノキを代表とする落葉広葉樹林、山地部では標高が高くなるにつれ、エゾマツやトドマツなどの常緑針葉樹が多くなります。また札幌市は自然植生(※)の割合が全国水準に比べて非常に高いのも特徴です。さらに札幌市とその周辺地域は、冷温帯と亜高山帯の移行部分に位置していることから、南方系と北方系の植物が混在しているため、植物種が極めて豊富。道内に生育している植物種の約62%、全国の植物種の約23%を占めているといわれます。これらの植物の中で、特に着目される群落は「特定植物群落」として保護されており、札幌市とその周辺では札幌月寒羊ヶ丘自然林、札幌藻岩山天然林、野幌自然休養林、石狩海岸砂丘林、手稲星置の滝自然林などの14件(表➀)が報告されています。
  また特に南西部の森林は、その多くが水源涵養林、風致保安林などに指定され、中には天然記念物、風致地区(表➁)、自然公園、環境緑地保護地区などが含まれています。
  このうち円山原始林と藻岩原始林は1921(T10)年に北海道における第1号の天然記念物に指定されており、市役所本庁舎前庭や札幌南高校の学校林(清田区)など市内の12カ所が北海道自然環境等保全条例に基づき環境緑地保護地区に指定されるなどしています。
※自然植生/人間によって伐採や植林などの手が加えられていない植生。植生とは、ある地域における植物体の集まりの総称。


.生きものの生命を育む自然性豊かな天然林や水辺

  札幌市は大都市にも関わらず、動物種や植物種が豊富です。その大きな理由の一つとして森林面積に占める天然林の割合が高いことが挙げられます。市域の森林面積全体、79,591haのうち79%に当たる55,714haが天然林で、加えて地質や地形、植生などの点で自然性が良好に保たれ、多様な生物の生息・生育環境になっているのです。
  豊かな水辺の環境も動物種や植物種にとって不可欠です。札幌市内には、石狩川、茨戸川、発寒川、創成川など44本、総延長約290kmの一級河川が流れているほか、新川、軽川など19本、総延長約72kmの二級河川60本、総延長約107kmの準用河川、472本、総延長約723kmの普通河川があります。これらの川の河畔にはさまざまな植物が生い茂り、多くの野生の生き物の貴重な生息・生育場所になっています。
  天然林を主とした広大な森林や河川を中心とした水辺の環境は、多様な動物を育みます。例えば札幌市とその周辺ではヒグマやエゾシカ、キタキツネなど約40種のほ乳類、8種類のは虫類、6種の両生類、46種の淡水魚類などが確認され、大都市でありながら動物種が豊富なことが分かります。
  中でも特に目立つのが鳥類の豊富さです。
  そもそも北海道は、南方系の鳥の北限や北方系の鳥の南限に当たる鳥も多く、また渡りのコースにもなっており、鳥類が豊富です。札幌市とその周辺は北海道南西部の特徴を示すと言われ、道内で確認されている鳥類405種のうち約68%に当たる275種が報告されています。
  道では、野生鳥獣の保護繁殖を図るため、森林性鳥獣の生息地、都市の生活環境改善のため野鳥などを誘致する地域などを鳥獣保護区に指定していますが、札幌市内では、定山渓や羊ヶ丘白旗山、手稲など5カ所を「森林鳥獣生息地」として、また真駒内緑ヶ丘、藤の沢など4カ所を「身近な鳥獣生息地」として鳥獣保護区に設定しています(表➂)。
 豊かな植生や水辺の環境などはトンボやチョウなど昆虫類の“揺りかご”にもなっています。札幌市とその周辺地域は、山地から平野部、海浜、河川や湖沼まで多様な生息環境が存在し、また寒地系と温帯系の昆虫類の棲み家となっています。報告された昆虫類は2,902種にも上り、これは道内で報告されている昆虫類の約30%に当たります。
 


 セイヨウタンポポは札幌が発祥?

  春、堤防や道端にけなげに咲くタンポポは人の心を和ませ、気持ちを明るくさせてくれます。
  ところでこれらのタンポポ、実のところほとんどは日本の在来種ではなく、文字通り西洋から来たセイヨウタンポポ(写真)。在来種は極めて少なく、まず私たちの周りにあるタンポポは、ほぼ全てといっていいほどセイヨウタンポポです。
  このセイヨウタンポポ、いつごろ日本にやってきたのか。諸説があり、一つは明治初期、酪農の父といわれるエドウィン・ダンが牧草と一緒に導入したというものです。また外国からの荷物に種が付いてきたとの説や、宣教師が持ち込んだとの説もあります。
  最も有力と思われているのは、札幌農学校の開校当時、野菜として栽培が始まったという説。1877(M10)年、札幌農学校に教師として着任し、農業分野を担当したウィリアム・ペン・ブルックスという人がサラダ用の野菜として持ち込み、試験裁植したものから種が逃げ出し、札幌はもとより全道、全国に広がったといわれています。
  ブルックスはその後、クラーク学長の後を引き継ぎ活躍。生徒らからは“ブル先生”と慕われ、10年以上も札幌で暮らしました。これは農学校で一番長く活躍した外国人教師といわれます。ブルックスはセイヨウタンポポに限らず多くの野菜や牧草の種子を取り寄せ、学生だけでなく農家にも熱心に栽培法を指導しました。そのころ栽培した野菜には玉ネギ、ジャガイモ、トウキビ、キャベツ、トマト、ニンジンなど今では北海道が収穫全国一を誇るものがいくつもあります。
  日本で初めてセイヨウタンポポについて書かれた文献は、1904年の植物学誌。その中で著名な植物学者、牧野富太郎氏は「札幌はヨーロッパからの植物が道ばたにたくさん繁殖し、やがて日本中に広がるだろう」との内容について書いています。すでに明治期、札幌のまちが黄色いセイヨウタンポポの花で飾られていたに違いありません。また“日本中に広がる”との預言はズバリ当たりました。
  さて、日本にはもともとカンサイタンポポ、シロバナタンポポなど22種もの在来種があります。これらとセイヨウタンポポの見分け方はいとも簡単。黄色い花を包んでいる緑の部分が下向きに反り返っていればセイヨウタンポポ、花を包むように真っ直ぐ上を向いていれば在来種です。ちなみにセイヨウタンポポが増えたせいで在来種の土地が奪われ姿を消したように思われがちですが、セイヨウタンポポ全盛の最大の原因は人間。人間が開発を進めたため、在来種は生きづらくなった一方で、セイヨウタンポポは、開発で荒れた土地などでも生きていける逞しいタンポポなのです。


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